Friedman Benda

2022.6.5

今回のゲストは、ニューヨークとロサンゼルスに拠点を構えるフリードマン・ベンダのマーク・ベンダ(Marc Benda)。彼は、2007年にバリー・フリードマン(Barry Friedman)とギャラリーを立ち上げ、展覧会や出版、教育期間とのコラボレーションなど、多彩な活動を通してコンテンポラリーデザイン市場を黎明期から牽引してきた。コロナ禍真っ只中の2020年4月には、Design in Dialogueというコミュニケーションプラットフォームを立ち上げ、さまざまなデザイナーやアーティストとオンラインでの対話を深めてきたことも記憶に新しい。横尾忠則の大ファンだというマークは、毎年日本を訪れており、横尾忠則、倉俣史朗(没後、多くの作品を取り扱う)、nendoといった日本のデザイナーやアーティストともよく仕事をしてきたという。

フリードマン・ベンダ

コンテンポラリーデザイン、工芸、建築、ファインアート、最先端技術研究を横断するナラティブを浮かび上がらせ発展させるなど、世界のデザイン界に新たなつながりをもたらす機会を創出することで、一流のクリエイターとメーカーの統合を促している。また、デザインの歴史を批評的に捉えることに注力しており、デザインにおける対話を既存ソースから押し広げ、これまで主流ではなかった視点を探求。5大陸、4世代にわたって、歴史上重要な遺産、著名デザイナーから新進デザイナーまで幅広い作品を取り扱っている。2007年より、ニューヨークとロサンゼルスを拠点に、展覧会、出版、教育機関とのコラボレーションを行っており、コンテンポラリーデザイン市場と学術の発展に重要な役割を担っている。

これまで存在しなかったコンテンポラリーデザインのプラットフォーム

はじめまして、私たちは東京を拠点に活動をしているデザインスタジオwe+です。人間と自然や周囲の環境との間に新しい親密な関係を作り出すことを目指した活動をしていて、コレクティブルな家具からインスタレーションまで手がけています。例えば、水の流れを可視化したSwirlという照明と花瓶のシリーズや、乾燥をテーマにしたDroughtという椅子など、自然現象を利用した作品づくりをしています。

マーク

こんにちは、私もはじめに簡単な自己紹介をさせてください。実は日本とは長い付き合いで、2005年以来、年に1〜2回は日本を訪れています。多くのアーティストと仕事をしているんです。

確かNendoともお仕事をされていますよね?他にはどんな方とご一緒されているのですか。

マーク

横尾忠則さんをご存知ですか。私は彼の大ファンで、新婚旅行で日本に行った時に彼に会い、それからお付き合いが始まりました。今でも家族ぐるみでとても良い関係を築いています。倉俣史朗さんの事務所とも長い間お仕事をしてきました。彼のことを直接知っているわけではありませんが、彼はすばらしい人ですよね。私が代理人を務めたアーティストで直接会わなかったのは彼だけです。

そうだったのですね!ではさっそくインタビューをはじめます。最初の質問はギャラリーの基本情報について。フリードマン・ベンダの設立は2007年。当時はコンテンポラリーデザイン市場が今ほどポピュラーではなかったと思いますが、ギャラリーを立ち上げた経緯やコンセプトを教えていただけますか。

マーク

私は若い頃からアートやデザインが大好きで、90年代の半ばから作品の売買を行っていました。そして学業を終えた2002年、当時すでに伝説的な存在だったギャラリスト、バリー・フリードマンと仕事をするためにニューヨークへやってきたのです。当時のニューヨークにはコンテンポラリーデザインを扱うギャラリーは皆無でした。世界的にもごくわずかだったと思います。そこで私たちは、現役のアーティストを紹介する方法と同様のアプローチで、デザイナーのためのプログラムを考えました。当時のデザインギャラリーは小売業を営むプロダクションハウス的な存在がほとんどでしたから、それは非常に新しい試みでした。最初の数年はバリーのギャラリーで展示をしていましたが、そこではアール・デコやアール・ヌーヴォー、へーリット・トーマス・リートフェルトの作品等も扱っていたので、もっと焦点を絞ったプラットフォームが必要だと感じ、チェルシーに移ってフリードマン・ベンダを立ち上げたのです。

Courtesy of Friedman Benda
Photography by Jill Peters

デザイナーの言葉を聞き、哲学に触れ、学ぶ場所をつくるために

安藤

フリードマン・ベンダでは2020年の4月より、Design in Dialogueと題して、パンデミック渦中のデザインコミュニティに出会いの場を提供してきました。デザインの幅広さや多様性を探求する機会となったと書かれていましたが、心に残っているエピソードはありますか。また、ギャラリーの活動に影響はありましたか。

マーク

あの頃、人々の接点は家族に絞られ、あるいは一人ぼっちになり、私たちは人とのふれあいの重要性を実感しました。Spotifyで音楽は聴けるけど、コンサートには行けなかったり、テレビは観られるけど、映画を観に行くのとは訳が違ったり。デザイナーも同じことに気づいたのではないでしょうか。作品が写真のみで評価され、説明されることもありますが、受け手は本物を見た時と同じようには受け取れません。「モノ」は人間の心や身体と何らかの形で相互作用するように作られているのです。ロックダウンが起こった時、私たちはいくつかの非常に重要な決断を下しました。一つは、ギャラリーとしてアーティストとの約束をすべて継続し、作品を制作することでした。アーティストが作品を制作できる限り、たとえ世界が崩壊していたとしても全面的にサポートすると決めたのです。もう一つは、オンラインの使い方を決めたことです。あの時、多くのギャラリーがオンラインのビューイングルームを開設し、作品を販売するようになりました。しかしそれは、私たちがコミュニティと対話を続けていく方法としては正しくないと感じたのです。リアルなギャラリーで展覧会を開いた場合、約1,000人が来場し、そのうち20〜30人が作品を購入します。多くの方々が展覧会を楽しみ、人々と展覧会の間に相互作用が生まれるのです。しかし、ビューイングルームではそのようなことは起こりません。そこで、ほとんどのデザイナーやアーティストが外に出られず家で過ごしていた、あの瞬間を利用したいと考え、キュレーターであり歴史学者のグレン・アダムソン(Glenn Adamson)と、話を聞いてみたいデザイナーや建築家、アーティストのリストを作成し、彼らの言葉を聞き、哲学に触れ、学ぶ場を提供するためにオンライン対話を始めたのです。本当に誰かの哲学を理解したいなら、その哲学について聞く必要がありますが、当時、そのようなコンテンツはほとんどありませんでしたから。一番印象に残っているのは、配信を2〜3回続けた後のことでしょうか。最初は家族や友人など知っている人のみだったのですが、突然、知らない人々まで視聴するようになったのです。トータルで750,000PVのコンテンツに成長し、デザイン・コミュニティには多くの人がいることが分かりました。ギャラリーの未来に向けたインパクトがそこにはあり、Design in Dialogueが独自の発展を遂げていることにとても魅力を感じました。デザイナーやアーティスト、あるいはコミュニティそのものを表現する場所であり、参加した人々が、リアルタイムに考えをまとめ、意見交換をするとても価値あるものだったと思います。また、これまで私たちのコミュニティにはデザイナーとのリアルな接点がなかったので、その接点を提供し始められたことは重要な点だったと思います。

安藤

2020年は非常に厳しい一年でしたが、歴史や未来を考える良い機会でもあったと思います。

マーク

時には、ゆっくりすることもいいものです。普段当たり前だと思っていることを改めて考えてみると、気づくこともありますし。長年、このようなことを考えたことはありませんでした。貴重な教訓にしたいです。

そうですね、私もあの頃、Design in Dialogueや他のデザイナーらが仕掛けたインスタグラムライブをよく聴いていました。

Courtesy of Friedman Benda and Misha Kahn
Photography by Dan Kukla

日本のデザイン市場の特徴

ところであなたは、日本の建築家やデザイナーは、20世紀後半以降、ヨーロッパやアメリカのデザインに多大な影響を与えてきたとおっしゃっていましたね。一方、日本のコンテンポラリーデザイン、コレクティブルデザインのマーケットはまだまだ小さいので、私たちはそれを発展させたいとも考えています。日本のデザインシーンについてどう思われますか。

マーク

そうですね、私たちは二つの異なる側面について話しているのだと思います。一つは、デザインのはじまりや製造に関する側面、そしてもう一つはそれを消費する側面です。なお、これは意味論かもしれませんが、私はコレクティブルデザインとは決して呼びません。その根底に多くの文化と歴史があり、デザインが私たちの社会や哲学を反映していると考えたとき、コレクティブル(蒐集する)という側面は、取るに足らないことだと思うからです。私はマーケットとクリエイションを別枠で考えていて、マーケットに関して言えば、私が知る限り日本の住宅は他国よりはるかに小さい。日本人は、あまり引っ越さないし、非常に裕福だったとしても、必ずしも大きな家に住むわけではありませんよね。一方、アメリカ人はよく引っ越しますし、新しい家も建てます。私のクライアントの大多数が、複数の家を持っています。また、日本人は思慮深く、西洋文化と比べて、より長く丁寧にものと暮らしていると思います。一般論は避けたいのですが、私の経験では日本のコレクターは欧米人よりも合理的です。欧米人は、破壊的で、自分の考えを覆し疑問を投げかけるようなアートやデザインを買いますが、日本のクライアントはとても現実的で、自分を映し出す彫刻ではなく、家族が座れる、快適なソファが欲しいのです。日本の美術館で開催される良質なデザイン展は、欧米では見たことがないほど多くの人で賑わいますが、そこで展示されている作品は、彼ら自身の暮らしには関係ないものなのです。作品はすばらしいけれど、家に置こうとはならないんですね。それは、モダニズムがどれだけ深く私たちの精神に入り込んでいるかということでもあると思っていて、日本は、仏教文化から初期モダニズムまで、すべての表現において、非常に合理主義的でモダニズム的であると感じます。

Courtesy of Friedman Benda and nendo
Photography by Takumi Ota

マーク流、才能の見つけ方

安藤

とても興味深いお話ですね。ところで新たな才能はどのように見つけるのですか。

マーク

もともと好奇心旺盛な性格なので、多くの人と話をしたり、ものを見たり、そういった対話から学ぶことは非常に多いです。才能の多くは教育から生まれますから、トップスクールとも連絡を取り合っています。また、ギャラリーでは年に一度、ゲストキュレーターを招いて展覧会を開いているので、毎年、新しい出会いがあります。デザイナーが他のデザイナーを紹介してくれることもよくありますね。多くのデザイナーは自分の出身校に関わっていますから。例えば、イギリス人デザイナーのポール・コックセッジとの出会いがそうです。英国王立芸術大学で教鞭を取るロン・アラッドとお仕事をご一緒していたとき、「すごく目立っている生徒がいるから彼に会うべきだ。」と、彼を推薦してくれたのです。幸いにも、多くの情報をもたらしてくれる人々が私のまわりにはいます。

Courtesy of Friedman Benda and Ron Arad
Photography by Daniel Kukla

若手デザイナーに期待すること

人が人を連れてくるのですね。あなたは日本のデザイナーとも仕事をしていますが、とくに若手デザイナーに期待することはありますか。

マーク

地域や国で期待が変わることはありません。意外と思うかもしれませんが、私がもっとも大切にしているのは人間的な要素です。もし私が史上最高の天才と出会い、その人と一緒に誰よりもお金を稼ぐことができても、人間関係が楽しくなければうまくいきません。信頼し合えるオープンな関係こそ必要なのです。また、すべてのデザイナーには本物であってほしいと願います。年齢に関係なく彼らから学べることや、彼らの立脚点から生まれる正真正銘の表現に期待したいですね。

Courtesy of Friedman Benda and Samuel Ross
Photography by Oriol Tarridas

デザインは人間性や心の状態を映し出すものへ

安藤

今後、コンテンポラリーデザインはどう変わっていくのでしょうか。

マーク

コンテンポラリーデザインの地位は非常に高くなったと思います。一枚岩として成長するのではなく、アートコンセプトに溶け込み、独立したカテゴリーでありながら、工芸やデザイン、絵画や彫刻も許容していくと思います。実際、区別するのはとても難しくなりそうです。一方、デジタル化による革命は、まだそれほど進んでいないと感じます。3Dプリンターは制作手法を完全に変えましたが、まだ初期段階です。同時に、それに対抗する動きもあるのではないでしょうか。写真が登場したとき、誰もが絵画は終わったと思いましたが、実際それが近代絵画の始まりだったように。今後、効率的なクリエイションにおいても同じことが起こると思います。若手デザイナーは、どうすればより良く、より新しくできるかを考えずにいられるか、どうしたら自分の中に戻っていけるのか自問自答する必要があると思うんです。ここ数年で私たちが始めたことは、新しい形を見つけることとは逆の、現代アーティストと同様のアプローチをベースにした心の状態を映し出すことです。私たちが扱うオブジェは、いわゆる製造とは対照的に人間性を反映するものであり、アイデンティティの探求そのものなのです。また私は、デザインという学問は何十年も前の教義に基づいていると思います。いま世界において、何が良いデザインで何が良い形なのかは、ごく少数の文化である西ヨーロッパやアメリカの美学的思想に基づいています。日本は欧米以外で唯一ほぼ特異な成功を収め、そこに独自の文化を加えることができましたが、私が言及しなかった世界の大半の国々を考えてみてください。東アジアにもアフリカにも、南米にだって豊かな文化がありデザイナーはいます。だからこそ、世界のデザインを見ることが重要だと思うのです。それらは異なる分野でありながら重なり合うものです。コンテンポラリーデザインの分野は、まだ見たことのない多くの流派を巻き込んで拡大していくと思います。

ありがとうございます。では最後に読者のみなさんにメッセージをお願いします。

マーク

私は日本の建築やデザイン、工芸のすばらしさに憧れ、多大な影響を受けてきました。初めてそれらを知ったとき、西洋はある分野においていかに未発達で、日本が工芸とともに発展させてきた奥深さを探求してこなかったことに気づかされたのです。今日はどうもありがとう。次は、日本で会えることを楽しみにしています。

Carpenters Workshop Gallery

2022.3.15