Unseen Objects

Heiwa Gokin

鋳物文化の魅力と価値を再定義する

Unseen Objectsは、we+と富山県高岡市の鋳物会社平和合金のコラボレーションから生まれた花瓶のコレクションです。鋳物の製造過程で使用される道具や治具、素材の質感や偶発的な造形など、これまで見過ごされてきた鋳物文化の舞台裏に着目。高度な鋳造技術の本質を作品へと昇華することで、鋳造文化の魅力を伝えるながら、その価値を再発見、再定義することを試みています。

Project Details

Year
2025
Client
Heiwa Gokin
Category
Photo
  • Nik van der Giesen
  • Masayuki Hayashi
  • Kenichi Murase

Collection

鋳造プロセスの中で、見過ごされてきたユニーク性に焦点を当てる

富⼭県⾼岡市は、江⼾時代から400年にわたり、銅器鋳造の中⼼地として発展してきました。⽇本国内で 唯⼀、銅器鋳造の伝統的⼯芸品産地として指定されており、「⾼岡銅器」の伝統技術は、世代を超えて受け継がれています。その⾼岡市で1906年に創業した平和合⾦は、ブロンズ像、モニュメント、宗教美術品などの⼤型鋳造から、ロストワックス鋳造による繊細な⼩型彫刻、アート作品まで、これまでに培ってきた技術⼒と造形⼒をいかしたさまざまな鋳造を⾏ってきました。本プロジェクトでは、we+が平和合金の鋳物工場を幾度となく訪ね、さまざまな鋳造プロセスを丁寧にリサーチ。工場で日々生まれる見過ごされてきた魅力に焦点を当て、「中子」「ゴム型」「砂型」「鋳砂」「バリ」「鉄棒」の6つの作品で構成する花瓶のコレクションを制作しました。

鋳造とは本質的に、変化をもたらす行為です。そこには実用性と物語性が重なり合い、化学、素材、そして職人技がひとつになって、まだ見ぬ何かを形づくるために動き出します。その過程は、つねに予測できない結果が潜むジェットコースターのようでもあります。定められた工程を踏みながらも、素材と技法に向き合うなかで、思いがけない何かが立ち上がってくる—それが鋳造の奥深さなのです。

完璧さを追い求めるこの時代に、Unseen Objectsは静かに異議を唱えます。本作が目を向けるのは、製造過程における「ミス」や「残余物」です。例えば、鋳型の継ぎ目に生じるバリ、こびりついた砂、補強鉄棒の入り組んだ格子模様など、長らく見過ごされてきたものたち。美とは決して磨き上げられたものだけに宿るわけではありません。ひび割れの中に、残された痕跡の中に、そして手の跡が刻まれた不完全なかたちの中にも、美しさは静かに息づいているのです。そして、この作品の本質は、単なる素材の探求にとどまりません。それは私たち自身についても語りかけます。失敗をどう受け止めるのか、試行錯誤をどう乗り越えていくのか。そこには、ものづくりを超えた、生きることそのものへの問いかけがあるのです。

デザインキュレーター・作家 マリア・クリスティーナ・ディデロ

中子(Casting Core)

中子とは、鋳物の内部に空洞をつくるために 鋳型の中に挿入される型のことです。 外からは見えないため、職人たちが必要に応じてその場で中子をつくりますが、 鋳造される鋳物に比べ、エッジが丸く滑らかになる傾向があります。本プロジェクトでは、その意図せずに生まれる曖昧かつ独特な造形を生かした花瓶を制作しています。

ゴム型(Rubber Mold for Lost Wax Casting)

ロストワックス鋳造は鋳造技法の一つで、樹脂や金属で形成された原型をもとに、ワックスを流し込むゴム型や石膏型がつくられます。これらの型の内側は、原型をトレースして丁寧につくられますが、外側はクランプなどで固定しやすい形状に職人の手で整えられます。本プロジェクトでは、作業の利便性のために生みだされるその機能的な形状を忠実に再現し、花瓶として昇華させています。

砂型(Ceramic Mold for Lost Wax Casting)

ロストワックス鋳造で使用される砂型は、細かい砂と粗い砂を交互に層状に重ねてつくられ焼成することで陶磁器化します。小さなオブジェやパーツを多数鋳造する時は、下部に配置される原型に金属が均一に流れるようにワックス型にさまざまな流路が設けられます。本プロジェクトでは、製品が完成すると破壊される運命にある砂型をそのまま生かしています。

鋳砂(Sand Residue)

鋳造後、冷えた鋳物は型から取り出されますが一部の砂は鋳物に付着したまま残ります。これは砂残りと呼ばれ、通常は振動やエアがンを使って取り除かれます。本プロジェクトでは、この砂を意図的に残すことで、金属と砂が融合した新しい鋳造のかたちを提案しています。

バリ(Burr)

大型鋳物の鋳造で使われる砂型(砂を材料とする鋳型)は原型の形やサイズに応じて、小さなパーツに分割してつくられます。そこに溶けた金属が流し込まれて固まるとパーツとパーツの隙間にバリと呼ばれる突起物が出現します。通常、バリは仕上げの工程で取り除かれますが、本プロジェクトでは、鋳造のプロセスの中から自然と立ち現れるバリの造形を生かして花瓶を制作しています。

鉄棒(Iron Rods)

大型鋳物の鋳造では、重量を支えるため鉄棒でつくられたフレームで砂型を固定します。 鋳造するオブジェに合わせて職人が鉄棒を溶接し、オリジナルのフレームをつくります。幾度か使い回された鉄棒は、折れ曲がり、有機的な溶接痕が残ります。本プロジェクトでは、鋳造のプロセスが刻み込まれた鉄棒の形状を生かした花瓶を提案しています。

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