Rossana Olrandi
第5回目のゲストは、ミラノでアート&デザインギャラリーを運営するギャラリスト兼キュレーターのロッサーナ・オルランディ(Rossana Orlandi)。2002年にファッション業界からギャラリストに転身した彼女は、現在デザイン界で最も重要な人物の一人であり、数多くのトップデザイナーがロッサーナ・オルランディ・ギャラリーでのショーをきっかけに世界へと羽ばたいている。we+もまた、2017年よりロッサーナのもとで作品発表を行っている。(インタビューは2021年8月に実施)
- ロッサーナ・オルランディ
2002年に、ファッション業界からキャリアチェンジし、ミラノの元ネクタイ工場にロッサーナ・オルランディ・ギャラリーをオープン。想像力豊かなデザインを展示し、ヨーロッパを中心とした新進気鋭のデザイナーを育てており、ギャラリーは、アバンギャルドなデザインとスタイルのための世界で最も尊敬されるプラットフォームの一つとなっている。
ミラノにデザインのメッカが生まれた理由
こんにちは。お元気ですか?
はい元気です。次のミラノデザインウィークはコロナもあって参加できませんが、来年のミラノでは新作をお披露目したいです。
はい、楽しみにしています。私たちはいま、デジタルソリューションを使って、デザイナーがミラノにいなくてもプロジェクトに参加できるように計画をしているところです。
それはすばらしい動きですね。では早速インタビューをはじめましょう。あなたは以前、ファッション業界で働かれていたそうですが、約20年前に大きなキャリアチェンジをし、ロッサーナ・オルランディ・ギャラリーを立ち上げられました。ギャラリーをスタートした経緯やそのコンセプトを教えてください。
私は長年ファッションの仕事をしてきました。とても情熱的でわくわくするものでしたし、日本とも8年間仕事をしたんですよ。あれは素敵な仕事で、日本が大好きです。ただ、急速にトレンドが移り変わるファッション業界に疲れてしまい、面白みを感じなくなってしまったんです。そんな時、たまたまとてもすばらしい場所に出会うきっかけがあって、ギャラリーを始めることにしたんです。もともとデザインに魅了され、デザインコレクターだったという背景もあります。ギャラリーで展示する作品を選ぶことはいつもエモーショナルな体験で、作品同士の対話が生まれることを大切にしています。それが私のスタイルです。
ロッサーナにとって、デザインとは?
ロッサーナ・オルランディ・ギャラリーは、いわゆるコレクティブルデザイン、コンテンポラリーデザインを扱うギャラリーとして日本でも有名ですが、あなたにとってデザインとは何ですか?
デザインはとても開かれていて、ポジティブな感情を生み出すものだと思います。私が大切にしていることは、シンプルですが感情や感動がベースにあることです。
だとすれば、ギャラリーはあなたそのものと言えるかもしれませんね。
そうですね、ギャラリーは私の楽しみそのものです。いつも作品と一緒にいることが何よりも大切なことなのです。
日本ではコレクティブルデザインのシーンがそこまで活発ではなく、あなたのギャラリーのような場所はなかなかありませんが、日本のデザインについてどう感じていますか?
日本のデザインは好きですよ。もちろんあなた方の作品も含めて。とても洗練されていますし、文化的にも成熟していると思います。残念ながら日本のデザイナーとそこまで多く仕事をしたことはないのですが。
デザインに求められるのは、美しさと必然性と正当性
これからのデザインが社会に果たす役割とは何でしょうか?
今の時代、デザイナーは持続可能な素材のあり方を考えなければいけませんし、多くの社会問題に立ち向かう責任があると思います。ただ美しいものをつくるだけでは駄目で、ものづくりの必然性や正当性がより大切になってきていると感じます。美しくて、人を楽しませることができ、未来の可能性にも溢れている、そんなデザインが求められていることは非常に好ましい傾向だと思っています。そんな背景もあり、次のミラノデザインウィークでは2つのプレゼンテーションを行います。一つは特にすぐれた作品を紹介するコレクティブルデザイン、もう一つは、娘とともに立ち上げたプラスチック問題の解決を目指すGuiltlessplastic®︎(罪のないプラスチック)プロジェクトです。使用済みプラスチックや廃棄物の重要性と価値を伝える非常に大きなプレゼンテーションで、テクノロジーやイノベーションによって叶えられる使用済みプラスチックの冒険を、多くの方に楽しんでいただけると思います。
環境を守るためにリサイクルプラスチックの賞を設立
あなたはGuiltlessplastic®︎プロジェクトの紹介文のなかで、プラスチックそのものが悪者なのではなく、誤った使い方や乱用が問題なのだと言われていますね。プロジェクトのことをもう少し詳しく教えていただけますか?
プラスチックそのものは悪者ではありません。プラスチックは非常に優れた素材で、私たちはプラスチックなしには生きていけません。そこで私は数年前、リサイクルプラスチックの価値と、美しさ、再利用の可能性を示すために、Ro Plastic Prize(ロープラスチック賞)を立ち上げました。考えをなかなか変えられない人々を巻き込み、行動を促したいと思ったのです。賞を立ち上げたばかりの頃は、リサイクル素材を使うデザイナーは少数でしたが、今では多くのすばらしい作品が生まれています。それらは課題解決につながる非常に価値のある作品たちです。人々はもっと、リサイクルプラスチックから生まれる作品の重要性と価値を知るべきです。でも最も大切なことは、これ以上プラスチックを捨てないように人々を促し、環境を守ることなのです。
進化するテクノロジーと人々の意識
賞を立ち上げたことで、人々の考えが変わってきたのですね。
その通りです。問題を理解する人が増えて、リサイクルプラスチックを使ったすばらしい作品が生み出されるようになり、状況は大きく変わったと思います。また、新しいテクノロジーが新たな素材を生み出してもいます。4年前にプロジェクトを始めた頃は「彼女の理論は間違っている!」とも言われましたが、当時はできなかったことが今では技術的にできるようになっています。
いつもあなたのプロジェクトには、デザインやアートのパワーを感じます。Ro Plastic Prizeを通して人々に変化が起きていることは、本当にすばらしいことです。環境問題は世界中の人々が直面する大きなテーマですが、新型コロナウイルスによるパンデミックもまた大きな問題です。以前のインタビューの中で、あなたのギャラリーはあらゆる人々の出会いの場であり、才能ある人々が私たちの仲間になることを歓迎しているとおっしゃっていましたが、集うことが難しい今、ギャラリーの役割に変化はありますか?
パンデミックによってすべてが大きく変わってしまいましたが、これは新しい時代の幕開けとも言えます。皆、以前とは違ったやり方を模索していますが、テクノロジーを使った新たなコミュニケーションは感情が抜け落ちがちなので、より良いコミュニケーションのあり方を見つけようとしています。新しいことに取り組むことはいつもわくわくするものです。確かに旅行にはあまり行けず、感情を揺さぶられる機会も減ってはいますが、思考を深める貴重な時間が与えられているとも言えるわけですから。ミラノは止まりませんよ!