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第7回目のゲストは、ロサンゼルスを拠点に活動するギャラリーオール。中国人のYu WangとXiao Luによって2014年に設立されたギャラリーで、優れたコンテンポラリーデザインとアートコレクションの展示やプレゼンテーションで国際的に高い評価を得ており、今年は上海に新たなスペースもオープンさせた。アジアのデザイナーやアーティストが国際的に活躍するためのプラットフォームとして、急速に発展するアジアのアート&デザインマーケットを牽引する、今注目のデザインギャラリーだ。今回は、創業者の一人であるユー・ワン(Yu Wang)と、エグゼクティブ・ディレクターのマーシャ・ゾン(Marsha Zhong)にお話を伺った。
- ギャラリーオール
2014年にユー・ワン(Yu Wang)とシャオ・ルー(Xiao Lu)によってロサンゼルスで設立。最も優れたコンテンポラリーデザインとアートのコレクションを対象に、常に進化し続ける展示プログラムとプレゼンテーションで国際的に高い評価を得ている。学際的な分野で深い研究能力と創造的な可能性を持つ現代アーティストやデザイナーの作品を扱っており、世界中の著名なアートフェアや展覧会で発表。最近では、上海に新しいスペースを設立し、国際的なデザイナーやアーティストのアジアでの認知度の向上に努め、アジアのデザイナーやアーティストが国際的に活躍するためのプラットフォームとして重要な役割を担うことを目指している。
東洋と西洋のギャップを埋めるために始めたギャラリー
ギャラリーオールは、設立してまだ数年の若いギャラリーですが、とても勢いを感じます。設立の経緯を教えていただけますか。
ギャラリーオールを設立したのは、2014年の夏です。ロサンゼルスでスタートし、秋には北京にもギャラリーをオープンさせました。中国でギャラリーを始めた当初は、顧客基盤も持っていませんでしたし、新規の顧客は私たちがやっていることを理解してくれなかったので、主に友人やこの業界に理解のあるデザイナーに支えられました。それから数年、口コミで知名度が上がり、欧米でのオークションやデザインフェアを見て、私たちの活動を理解する顧客も増えてきました。中国には現在も課題がありますが、はるかに管理はしやすくなり、今では私たちにとって2番目に大きな市場で毎年2桁の成長を続けています。コンテンポラリーデザインの市場全体は成長しており、優秀なアーティストやデザイナーがどんどん参入してきています。私たちはより多くの仕事を彼らに依頼するようになりましたし、デザイナーがすばらしい作品を制作できるよう、より明確な制作工程を取り入れるようになりました。
どうしてギャラリストになろうと思ったのですか。
私は建築家として教育を受け、建築と彫刻的なオブジェに常に魅了されてきました。ただ、中国や他のアジアのコンテンポラリーなデザイナーが、トップクラスのデザインフェアやミュージアムの展示に登場することはほとんどありません。それと同時に、中国のデザイン展で見られるのは、地元の工芸品やイタリアの高級家具ブランドがほとんどです。中国国外には、中国のコレクティブルデザインの展覧会、中国国内には、西洋のデザイナーの展覧会のプラットフォームがないのです。そこで、東洋と西洋のギャップを埋めるためにギャラリーを開くことにしたのです。
ファブリケーション・プログラムという強み
ギャラリーオールでは中国の工場と提携し、デザイナーやアーティストの作品制作を担われていますが、そういったスタイルはデザインギャラリーでは一般的ですか。デザイナーやアーティストが作った作品の販売のみをギャラリーが担うこともあるのでしょうか。
このスタイルは、業界のなかでは特殊な方だと思います。もちろんデザイナーやアーティストが作られた作品を販売する伝統的なギャラリーの手法もあるのですが、私たちが中国の工場と提携していて、ファブリケーション・プログラムを持っていることを分かった上で、コラボレーションを希望するデザイナーやアーティストが大半なので、今抱えている案件の90%は提携工場で作っています。工場の人々とは何年も一緒にやっているので、私たちのチームの一員のような感覚ですが、デザイナーやアーティストが納得するクオリティを保つために、私たちが最初から最後まで厳しく管理して進めています。中国で作る一番のメリットはコストコントロールができることです。日本やアメリカで作るとコストが嵩み、販売価格が市場にフィットしないことってありますよね。クオリティを担保しながらコストを抑えることは、中国に工場がないとほぼ無理なのではないでしょうか。また、デザイナーやアーティストの制作にまつわるストレスはかなり減らせているのではないかと思います。制作や輸送の管理に疲れた有名なアーティストが、もう自分ではできないからと私たちに相談してくることもあります。例えば、画家の方に「レンダリングデータをもとに作品を彫刻にできませんか、タペストリーにできませんか」と相談されることもありますよ。
アメリカと中国で求められる作品は違う
そうなんですね。ところで、ギャラリーオールが扱われている作品は、見た目がキャッチーなものが多い印象なのですが、中国市場を意識しているのですか。
実は、中国市場を意識したことはなく、単純に私たちの好みなのだと思います。私たちが気に入った作品でないとお客様にもお勧めできないので。また、ロサンゼルスが拠点ということもあり、お客様はアメリカの方がほとんどです。中国はデザインにしてもファインアートにしてもマーケットがそこまで育っていないと感じています。特にミニマルなもの、ガラスやコンクリート、プラスチックを使ったインダストリアルなものは反応が悪いです。急速に誕生した中国の新しい富裕層は、全般的に分かりやすいものが好きなようで、キラキラしたものや材料費が高そうなもの、手の込んだ緻密な作品が好まれます。ギャラリーオールの作品は前衛的なので、ヨーロッパやアメリカの方が分かっていただける印象を持っています。
アメリカの中でも顧客が多い地域はありますか。
ニューヨークが一番多いです。ロサンゼルスにはハリウッドもあるので、セレブリティのリゾート邸宅を手がけるインテリアデザイナーが多いですね。ニューヨークの顧客は自分のために作品を買いますが、ロサンゼルスではそういったことに興味がある顧客は少ないかもしれません。それは中国と同じです。
そういえば、インテリアデザイナーという職業は、ヨーロッパではあまりメジャーではないですよね。ロンドンで学んでいた頃、インテリアデザインの学科は建築学部に含まれていました。一方、日本ではインテリアデザインは一つの学部として存在しています。職業として成立しているのは、アメリカや日本の方が多いと聞いたこともあります。
ヨーロッパは歴史が長いので、オールドマネー(既成の上流階級の相続財産を保有する人々)と呼ばれる人が多いからかもしれませんね。ところでお伺いしたいのですが、中国ではミドルマン(中間商人、ブローカー、仲人)と呼ばれる職業、例えば、ディーラーやアートアドバイザー、インテリアデザイナーはあまり尊敬されないのですが、日本ではどうでしょうか。中国の人々は、プロダクトにはお金を払いますが、サービスにお金を払うという感覚があまりないんです。ギャラリーを観に来る方も、熱心に勉強して帰っていきますが、その後、作家に直接作品を買えないか聞くことも多く、私たちとしては非常に困るんですよね。
日本では昔から、問屋や卸売という職業が存在していましたし、家具においても販売代理店やエージェントが存在してビジネスがまわっているので、いわゆるミドルマンと呼ばれる方はたくさんいます。彼らが尊敬されていないかというと決してそんなことはなく、当たり前のように存在しているという印象ですね。
一方で、ミドルマンはあまり目立つこともないかもしれません。作り手はやっていることが分かりやすいので、尊敬されやすいのですが、概念やサービスを買うということに関しては、まだ日本人も成熟していないのかもしれません。例えばデザイナーは、概念を作ることより、ものを作りスタイリングをする側面がフォーカスされがちです。ヨーロッパでは、デザイナーの思想を理解しようとする人が多い印象はあります。そういったことも、オルタナティブなデザインのあり方を提示するコンテンポラリーデザインが、日本ではまだまだ浸透しておらず、市場が小さい理由の一つなのではないかと思います。私たちの作品も、海外の方が理解されやすいです。
私もそう感じます。私は日本に何人かディーラーの友だちがいるんですが、日本は市場が小さく、コレクターの取り合いだと聞きました。
若き才能を花開かせるために
ギャラリーオールに所属するデザイナーやアーティストは中国人が多く、独自の方向性を感じるのですが、新たな才能はどのように見つけるのですか。美術大学の卒業制作展に足を運ぶことはありますか。
新しい才能を探すのは大切なんですが、今ではほとんど足を運ぶことはないですね。誰かの紹介や、本人からのアプローチで、作品を拝見することがほとんどです。ウェブサイトでは一部しか挙げられていませんが、実はすでに60組近いデザイナーやアーティストと仕事をしていて、手いっぱいという状況です。ファブリケーション・プログラムをやっていると、毎日がミーティング続きで。ただ、ファブリケーション・プログラムを活用するデザイナーやアーティストにも2種類あって、一つはすでに有名な作家で、自分ではできない他のメディアの作品も作ってみたいというケース、もう一つはすごく才能はあるけれどお金がなく、工場に発注もできずに困っているというケースです。後者は学校を卒業したばかりの若い子が多く、展覧会やギャラリーに来たことがきっかけで知り合うことが多い。銅を使った作品を手がけているから銅加工を得意とする工場を紹介してあげたり、ある女性のセラミックの作品を私たちが3Dスキャンして樹脂で作ったり。作業があまりにも多いので、紹介した工場に住み始め、工場の人と一緒に作品を作っていた作家もいましたね。
日本と中国のデザインに思うこと
日本のデザインについてどのように感じますか?
世界のデザイン史、特にモダンデザインの発展において、ジャパニーズデザインは非常に重要なカテゴリーだと思います。日本には、倉俣史朗をはじめ、影響力のあるデザインの巨匠が数多く存在します。また、日本の先駆的なデザイナーや建築家は、メタボリズムに代表されるような大きな建築運動を起こし、世界中に影響を与えてきました。一口に日本のデザインといっても、その範囲は広いと思いますが、西洋の文化を吸収しながら東洋の伝統を十分に取り入れ、同時に、精緻で厳格な思考を持って社会実装していくという特徴がありますよね。また、日本のデザインには、歴史的に蓄積されてきた豊富な土壌があります。例えば「わびさび」は日本発祥のスタイルとして、16世紀にはすでに始まっていました。19世紀には岡倉天心によってその精神が解釈され、現在も日本の流行を作る人々に影響を与えていますし、国際的にも一定の影響力を持っていますよね。
中国の美術大学は入学が非常に難しい印象があるのですが、中国の美術教育がどうなっているのかご存知ですか。
美術に限らず、スポーツにしろ他の分野にしろ、小さい頃から訓練を重ねている印象はあります。本当に幼少期から、毎日何時間もそれをやり続けて、個々の技術が上がっていくので、入学が熾烈な競争になってしまうのでしょうか。日本の教育はどうですか。
日本のデザイン教育は、社会に求められるデザインと強く結びついていて、自己表現ではなく、社会の課題を解決するもの、という考え方が主流にあると思います。もちろん今は徐々に変わってきていますが。we+のように作品を作ってギャラリーで発表をする、いわゆるコンテンポラリーデザイン、コレクティブルデザインの領域で活動するデザイナーがそんなにいない背景には、そういった教育システムの影響があるのかもしれません。これまでの日本では、インダストリアルなプロダクトや家具、ミニマルなものが主流だったと思います。
それは中国も、もしかするとアメリカやヨーロッパでも同じかもしれません。コレクティブルデザインとはそもそもデザインなのか、アートなのか、という議論もありますしね。デザイナーは本来、依頼があってそれに沿ってものを作りますが、アーティストは自己表現を追求するので、全然方向が違いますよね。最近すごくいいなと思うのは、デザイナーとして活動してきた方を、ギャラリーオールがアーティストとして売り出す時、彼らは予算やスケジュールなど、すごく細かいところに気を遣ってくれるんですよね。つまり、すごく仕事がしやすい。一緒に仕事をする方がビジネスのことを分かってくれているのは、本当に大切なことです。例えば、Diorとのお仕事で中国人アーティストをアサインする際、デザイナーとして活動してきた人とご一緒すると、ブランドのテーマやカラー、期限や予算など、さまざまな条件を理解してくれるので仕事がしやすいんです。
興味深いお話です。ところで、中国のコンテンポラリーデザインのシーンはどのように変わっていくと思いますか?
将来的には、デザインとアートの境界線は徐々になくなっていくと思います。それは、ギャラリーオールが期待し、推進しようとしていることでもあります。中国では、コレクティブルデザインの分野に力を入れているギャラリーが増えてきていて、多くの才能あるデザイナーが積極的に作品を制作しています。しかし、問題は私たちのようにデザイナーとリソースを共有できるギャラリーがほとんどないことです。デザイナーを助けるリソース、ギャラリー、ギャラリストは稀な存在です。しかし、ギャラリーやコレクターの数は増えているので、将来的には、ファインアートが過去に経験したように、コレクティブルデザインもより注目を集め、より健全で協力的な業界のエコシステムが形成されるのではないでしょうか。
これからのデザイナー像とは
将来的に、デザイナーはどうなっていくと思いますか?
これは現在も未来も、どんなデザイナーにも当てはまることだと思いますが、自分の芸術性を貫くこと、考えることにこだわること、独自性のある作品をつくること、作品を発表すること、より多くの人に見てもらうこと、それらすべてが大切だと思います。
ありがとうございました。では最後に読者のみなさんにメッセージをお願いします。
パンデミックは世界に明らかな境界線をひき、人々を離れ離れにさせましたが、そんな状況でもアートワークが癒しになることを願っています。上海の新しいスペースで、みなさんとお会いできることを楽しみにしています。